「そろりそろり」とゆっくり歩きながら、独特の表情と声で近づいてくる――。このフレーズで知られるのが、お笑いコンビ・チョコレートプラネットの長田庄平による、狂言師・和泉元彌のものまねだ。テレビや動画で見かけたことがあっても、言葉の本来の意味や、伝統芸能の狂言とどのようにつながっているのかまでは知らない人も多いだろう。
実は、「そろりそろり」はチョコレートプラネットが作った造語ではない。狂言の演目「柿山伏」とも関係する、古くから使われてきた日本語だ。一方、長田のものまねは和泉本人から所作の違いを指摘されたことでも話題になった。2018年の初共演、2019年のテレビ番組での説明、2024年の和泉本人のインタビューを手がかりに、2026年時点で押さえておきたい由来と真相を整理する。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 意味:「そろりそろり」は、動作をゆっくり静かに行う様子を表す副詞。
- 元ネタ:チョコレートプラネット長田庄平による和泉元彌のものまね。言葉そのものは狂言以前から存在する。
- 本人の反応:和泉元彌はものまねを楽しみながらも、和泉流の構えや手の形、柿の食べ方などに違いがあると指摘している。
【意味を解説】「そろりそろり」は何を表す言葉?
「そろりそろり」は、物音を立てないように、あるいは周囲に気づかれないように、ゆっくり静かに動く様子を表す言葉だ。「そろりそろりと歩く」「そろりそろりと戸を開ける」のように、動作を説明するときに使われる。
小学館の『精選版 日本国語大辞典』では、動作がゆっくりと静かに行われる様子を示す語として説明されている。同辞典が掲げる初出例は、1458~1460年ごろの文献『漢書列伝竺桃抄』だ。つまり、言葉の歴史は現代のお笑い番組よりはるかに古い。
「そろり」には、滑るようになめらかに動く、するりと抜けるといった意味もある。動作の速さだけでなく、動きの静かさや滑らかさも表現できるのが特徴だ。
なお、「そろそろ」とは使い方が異なる。「そろそろ出発しよう」のように、ある時期が近づいていることを表す場合は「そろそろ」を使う。一方、「そろりそろりと近づく」は、実際の動き方を描写する表現だ。
長田のものまねでは、ゆっくりした動きと独特の発声が組み合わさることで、この言葉の意味が視覚的にも伝わる。言葉の意味を知らない視聴者でも、何かを慎重に進めている様子を直感的に理解できる点が、笑いにつながっている。
【元ネタは誰?】チョコレートプラネット長田庄平と和泉元彌の関係
「そろりそろり」のものまねで知られるのは、お笑いコンビ・チョコレートプラネットの長田庄平だ。相方の松尾駿がIKKOのものまねで知られる一方、長田は狂言師・和泉元彌の顔立ちや話し方、独特の身のこなしを取り入れた芸で注目を集めた。
長田は1980年1月28日生まれ、京都府出身。松尾とともに2006年にチョコレートプラネットを結成した。ものまねだけでなくコントにも取り組むコンビで、人物の特徴を誇張し、短いフレーズや動きで印象を残す芸風も持ち味だ。
和泉元彌は狂言師として活動する人物で、和泉流宗家に関わる伝統芸能の担い手として知られる。長田の芸は、和泉の顔や雰囲気を再現するだけでなく、狂言を思わせる姿勢、歩き方、発声を組み合わせたものになっている。
テレビ朝日系の『金曜★ロンドンハーツ』では、2018年12月28日放送の特別番組で、長田と和泉の初共演が実現した。長田がものまねを披露すると、和泉本人が登場し、手の形や姿勢などを直接指導する展開になった。
当時のテレビ朝日POSTやTV LIFEの番組紹介によると、和泉は長田の動きを見て、本人の型とは異なる部分を具体的に指摘。長田は指導を受けながら、バラエティー番組の収録というより本格的な狂言指導に近い状況に驚いていた。
ここで押さえておきたいのは、長田の芸が和泉元彌本人の演技そのものではなく、本人を題材にしたものまねだという点だ。本人に似ていることと、伝統芸能として正しい型を再現できていることは、必ずしも同じではない。
【由来の核心】狂言「柿山伏」と「そろりそろり」のつながり
「そろりそろり」の由来を語るうえで外せないのが、狂言の演目「柿山伏(かきやまぶし)」だ。国立劇場の「芸能への誘い」によると、この演目では、修行帰りの山伏が空腹に耐えかねて柿の木に登り、実を食べているところを畑の主に見つかる。
畑の主は、山伏をすぐに追い払うのではなく、木の上にいる相手をカラスやサルだと思い込んだふりをして、鳴き声のまねをさせる。さらにトビのように飛べるはずだと誘導し、山伏はその言葉につられて飛び降り、痛い目に遭う。山伏の見栄や愚かしさを笑いに変える演目だ。
この作品に登場する「そろりそろり」は、柿の木の様子を見に行く場面などで使われる言葉だ。大蔵流の公開本文にも、畑の主が「まずそろりそろりと参ろう」と話す箇所が見られる。上演される流派や本文による違いはあるものの、この言葉が狂言の台詞として使われてきたことは確認できる。
重要なのは、「そろりそろり」が山伏の決め台詞として何度も繰り返される言葉ではないという点だ。2024年の文春オンラインのインタビューで、和泉元彌本人も、狂言では「そろりそろり」をあれほど何度も連呼するわけではないと説明している。
つまり、言葉の由来と、現代のものまねでの使われ方は分けて考える必要がある。古典芸能に由来する言葉を、長田がテレビ向けに繰り返し、特徴的な動作と組み合わせたことで、独立したギャグとして認識されるようになったのだ。
【本人の反応】和泉元彌が指摘した「所作の違い」とは?
長田のものまねが話題になった理由の一つは、和泉本人が実際に反応し、芸の細部について説明したことにある。2019年11月放送のTBS系『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』では、和泉が長田のものまねについて、最初は面白く見ていたものの、動きの違いに気づいたと語ったことが報じられた。
和泉が気にしたのは、単に似ているかどうかという問題ではない。自分の名前を冠したものまねであれば、和泉流宗家の型とはどこが違うのか、という専門家としての視点だった。
文春オンラインが2024年5月11日に掲載したインタビューでも、和泉は長田の顔や雰囲気は似ているとしつつ、構えや抑揚が異なると説明している。初めから一方的に否定していたというより、笑いとして楽しむ感覚と、狂言師として型を見極める感覚が同時にあったと理解できる。
具体的な違いを整理すると、次のようになる。
| 比較項目 | 和泉元彌が指摘した点 | ものまねとしての特徴 |
|---|---|---|
| 構え・姿勢 | 和泉流宗家の型とは異なる部分がある | 見た目の特徴を強調し、観客に伝わりやすくしている |
| 手の形 | 和泉本人の手の形と違うと指摘 | 手や腕の動きを印象的なギャグとして使う |
| 発声・抑揚 | 本人の演技とは抑揚などに違いがある | 短い言葉と声の調子を繰り返し、笑いを生む |
| 柿を食べる所作 | 和泉流では手を動かさずに食べると説明 | 長田は手を動かす演技を取り入れ、動きを目立たせる |
| 「そろりそろり」の回数 | 狂言では同じ言葉を何度も連呼するわけではない | 繰り返すことで、フレーズ自体をギャグとして成立させる |
柿の食べ方については、長田が「動かないとテレビでは地味になる」という趣旨の説明をし、和泉が実際の型との違いを伝えたことも報じられている。ここには、伝統芸能の所作を忠実に再現することと、テレビで一瞬見ただけでも伝わる演技にすることの違いが表れている。
また、和泉は2018年の初共演時に長田へ直接指導を行っている。ものまねの精度を高めるために本人が具体的な助言をしたことは、芸を単純に拒絶していたという見方とは一致しない。
一方、2024年のインタビューでは、長田のものまねについて「正式に非公認です」と冗談を交えながら説明している。これは、ものまねを見て楽しむことと、公式に公認することは別だという意味合いで捉えるのが自然だ。
【なぜ流行した?】「そろりそろり」が笑いを生んだ3つの理由
「そろりそろり」が広く知られるようになった背景には、長田のものまねが持つ、短時間で特徴が伝わる構造がある。2018年から2019年にかけてテレビ番組で取り上げられ、本人との共演や指導の様子まで放送されたことで、ものまねの背景も含めて話題にしやすくなった。
1つ目は、フレーズの短さだ。「そろりそろり」は短く、発音しやすい。長い台詞を知らなくても、言葉だけで動きのイメージが浮かぶ。ものまねを知らない人でも意味を推測しやすく、会話や動画の中で再現しやすい。
2つ目は、動作と声の組み合わせだ。ゆっくり近づく姿、独特の表情、特徴的な声を同時に見せるため、視覚と聴覚の両方に印象が残る。しかも動きがゆっくりであるほど、次の動作がどうなるのかという期待が生まれ、間そのものが笑いにつながる。
3つ目は、本物との比較ができることだ。和泉元彌本人が登場し、長田のものまねに直接指導をするという展開は、それ自体が番組の見どころになった。視聴者は、単に似ているかどうかだけでなく、本人がどこを違うと感じるのかも楽しめる。
さらに、狂言という伝統芸能に対する親しみやすさが増す効果もある。古典芸能に詳しくない人でも、ものまねを入り口に「柿山伏」や和泉流の型に興味を持つ可能性があるからだ。
ただし、これらは芸の構造や番組展開から考えられる要因であり、流行の理由を一つの統計だけで断定できるものではない。長田の表現力、テレビ番組の演出、本人との共演という複数の要素が重なった点に注目したい。
【使い方と2026年現在】本来の意味とネタをどう区別する?
日常会話で「そろりそろり」を使うときは、基本的に「静かに、ゆっくりと動く」という本来の意味で問題ない。例えば、寝ている人を起こさないように部屋を出るときや、物音を立てないようにドアを開けるときなどに使える。
具体的には、「子どもが寝ているので、そろりそろりと部屋を出た」「壊れやすい荷物を、そろりそろりと運んだ」といった使い方が自然だ。単に速度が遅いというだけでなく、慎重さや静かさを含む表現として使える。
一方、長田のものまねを連想させたい場合は、声の調子や動作を組み合わせることで、ギャグとしての意味が強まる。同じ言葉でも、普通の会話で使う場合と、特定の人物のものまねとして使う場合では、受け取られ方が異なる。
2026年現在、このテーマを理解するうえで押さえたい資料は、2018年の長田と和泉の初共演、2019年のテレビ番組での和泉の説明、そして2024年の文春オンラインによる本人インタビューだ。これらを通して見えてくるのは、「そろりそろり」という言葉の古さと、現代のものまねとしての新しい使われ方が共存しているということだ。
よくある誤解は、「そろりそろり」という言葉そのものがチョコレートプラネットの発明だというものだ。しかし、辞書に記録された古い用例や狂言の台詞を踏まえれば、これは正確ではない。また、和泉が所作の違いを指摘したからといって、ものまねそのものを全面的に否定したと受け取るのも適切ではない。本人は笑いとして楽しむ姿勢を示しながら、伝統芸能の型については明確に区別している。
芸人のネタとして楽しみたい人は、長田が作り上げた誇張表現やテンポに注目すると面白い。一方、狂言そのものに興味がある人は、ものまねを伝統芸能の正確な再現と同一視せず、「柿山伏」などの実際の演目に触れてみると、言葉や所作の違いがよりよく分かるはずだ。
【そろりそろり】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:「そろりそろり」の元ネタは誰ですか? A1:ものまねの元ネタとなった人物は狂言師の和泉元彌で、芸を披露しているのはチョコレートプラネットの長田庄平だ。ただし、「そろりそろり」という言葉自体は古くからある日本語で、狂言「柿山伏」にも関連する台詞が登場する。
Q2:和泉元彌は長田庄平のものまねを公認していますか? A2:2024年の文春オンラインのインタビューで、和泉本人は「正式に非公認です」と説明している。一方、ものまねを楽しんで見ていたことや、長田に直接狂言の所作を指導したことも語っている。楽しんでいることと正式な公認は区別する必要がある。
Q3:「そろりそろり」は狂言「柿山伏」の台詞ですか? A3:「柿山伏」の本文例には「まずそろりそろりと参ろう」という台詞がある。ただし、長田のネタのように何度も繰り返す決め台詞ではない。作品の台詞をもとに、ものまねとして印象的に再構成されている。
まとめ:そろりそろりの真相は「古い言葉」と「新しい笑い」の融合
「そろりそろり」は、動作をゆっくり静かに行う様子を表す古くからの日本語で、狂言「柿山伏」にも関連する台詞が見られる。チョコレートプラネットの長田庄平は、狂言師・和泉元彌の顔や雰囲気、独特の所作をものまねとして再構成し、このフレーズを広く知られるギャグへと発展させた。
和泉本人は長田の芸を楽しむ一方、構えや手の形、柿の食べ方、言葉の繰り返し方など、和泉流の型とは異なる点を指摘している。ここにあるのは単純な対立ではなく、伝統芸能の正確さと、テレビのお笑いに求められる分かりやすさとの違いだ。
2026年に改めてこのネタを振り返るなら、言葉の本来の意味、狂言の演目、長田のものまね、和泉本人の評価を切り分けて理解することが大切だ。背景を知れば、「そろりそろり」は単なる流行語ではなく、古典芸能と現代のお笑いが交わることで生まれた、興味深い表現だと分かる。 (出典: そろ り そろ り(Yahoo!ニュース))